声の老化の相談
今回のご相談は、声優・吹き替えなどもこなすナレーター、かおりさんによる、声に関するお悩みです。
40代も半ばになって、最近は声のトーンが低くなって落ち着いてきたようにも思うのですが、どちらかというと若いころより細くなってきたように感じていて、時々かすれてしまうこともあります。私は声を出すことが仕事なので、気になって色々調べてみたら、声も老化するとありました。そこで、アンチエイジングに良い働きをするという、アスタキサンチンに興味がわきました。
よくいらっしゃいました。かおりさんの仰るとおり、実は声も老化します。その原因は、声帯という、声をつくりだす器官が萎縮して硬くなることで、柔軟な動きができなくなることにあります。その結果、女性は低い声になったり、男性は逆に高くなったりするのです。
会社の重役や学校の校長先生のような職業の方で、「年を重ねてから声に威厳がなくなった」という悩みを抱える方も結構いらっしゃるようですよ。
悩んでいるのは私だけじゃないんですね。ただ、わたしはまだ40代なので老化って言われると少しショックで・・・声帯って、私のように声をよく使っていると早く老化してしまうのですか?
実は、声帯が傷ついても、老化したときのような症状が出てくるといわれています。かおりさんのように声のお仕事をされている“職業的音声使用者”の方々は、そうでない方に比べて、どうしても声帯を酷使してしまうので、傷つきやすいんですね。
トコトリさんのいうとおりです。そこで今日はかおりさんにぴったりの、傷ついた声帯へのアスタキサンチンの作用に関する研究をご紹介しましょう。
どうぞよろしくお願いします。
声の老化はなぜおきるの?
まずは、声帯の構造をいっしょに見てみましょう。こちらのイラストをご覧ください。これは、のどを上からのぞいた絵ですが、赤色で示している部分が声帯で、左右1対の粘膜のひだで出来ています。肺から登ってきた空気が左右のひだの隙間を通る時に振動することで声が出ています。
声帯はお肌のように、ヒアルロン酸やエラスチン、コラーゲンからできていて、粘弾性があってプルプルしているんです。特に、声帯の表面にはヒアルロン酸が豊富にあって、柔軟性を保っています。肺から息が出て声帯が振動すると、左右のひだが何度も開閉するんです。特に、声帯が隙間なく閉じることは、うまく声を出す上で非常に大切なのですが、これも、ヒアルロン酸が豊富で、柔軟だからできるのです。
ヒアルロン酸は、自分の6000倍もの重さの水分を蓄えて、ゼリー状にすることができる性質をもっています。お肌の保湿でもよく耳にしますね。声帯でもこの水分を蓄える力が発揮されて、プルプルとした粘弾性と柔軟性を保っているのです。しかし、声帯が老化するとヒアルロン酸が減るので、水分を蓄えることができなくなって縮んでしまい、柔軟だった声帯は硬くなってしまうのです。
声帯が硬くなると、開閉もスムーズにいかず、閉じた時に隙間が出来てしまいます。この隙間から空気が漏れてしまって、声がかすれたりするんですね。
ヒアルロン酸が少なくなる原因は、加齢だけなのですか?
加齢によって少なくなることも原因ですが、声帯に傷ができても、ヒアルロン酸は減少してしまいます。この傷が完治しないまま傷痕になってしまうと、声帯は硬くなってしまい、老化した声帯と同じような症状になってしまうのです。
かおりさんのように、声をご職業とされている方々は、そうでない方にくらべて声帯が傷つきやすいと考えられるんですよ。
傷ができると皮膚と同じように、痕が残らずにきれいに治ることもあるのですが、例えば、手術や薬品、火傷などで声帯に深いダメージを負ってしまうと、声帯の深層に傷痕が残ってしまうんです。かおりさんのように職業で声を使う方々は、一回で深い傷を負うというより、小さな声帯の傷が治らない内にまた酷使をして炎症が続いてしまった結果、傷が完治せずに傷痕になってしまうのです。このように傷痕になってしまうことを、瘢痕化(はんこんか)といいます。
瘢痕とは、皮膚にできるかさぶたの跡のようなものです。深い傷を負ったりすると、かさぶたの跡に見た目も触った感じも、周りの皮膚とは違うように硬いのものが残りますよね。
声帯も同じで瘢痕化すると、硬くなってしまいます。瘢痕化した声帯にはヒアルロン酸が回復しないことがわかっているので、老化した声帯と同じ症状になるのです。
私のように声を職業にしていると、声帯の傷が完治していなくても次々と使わなければいけないという状況はよくあるんです。どうにかならないのでしょうか。
残念ながら、今のところ瘢痕化した声帯に対する有効な治療手段というのはなく、瘢痕化の予防、つまり小さな傷でも早期に完治させて瘢痕化させないということが最も重要なんですよ。
傷を治すには、細胞や成長因子などが関係します。傷ができると、①炎症、②組織形成、③組織再構築の3つのプロセスを経て治っていくのですが、そのどの段階でも“活性酸素”が関与します。例えば傷ができた直後は、傷口を化膿させないために活性酸素が重要な働きをしています。しかし過剰量の活性酸素は治癒には悪い影響があり、瘢痕の原因になってしまいます。
活性酸素は老化の原因になるなど、あまり良くないイメージがあったのですが、必要なこともあるんですね。
要はバランスですね。傷痕にならないタイミングで活性酸素を抑えることが重要なのですよ。それではいよいよ、活性酸素を抑える働きをするアスタキサンチンが、声帯の傷に対してどんな影響を与えるのか見て行きましょう。
アスタキサンチンが声帯の傷に及ぼす影響
外科的な手術を施して声帯に傷をつけたラットを2グループに分け、手術(創傷)1日前から4日後まで、一方のグループにはアスタキサンチン、比較対象としてもう一方のグループにはオリーブオイルを与え、傷の治り方に対するアスタキサンチンの影響を調べました。
術後1日の声帯深層の創傷部位の酸化度合(活性酸素によるダメージの度合い)を調べると、アスタキサンチンを与えているグループは、与えていないグループとくらべて低くなっていることがわかりました。
傷が治る過程で過剰な活性酸素があると、傷ついた組織は瘢痕化してしまうので、創傷後早い段階で活性酸素を抑えることが重要です。このグラフからわかるとおり、アスタキサンチングループでは、創傷後1日という早い段階で創傷部分の酸化度合いが低くなっていたのです。 さらに、声帯深層の『Ⅰ型コラーゲン』と『bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)』という、傷ついた組織を修復して元通りにするために重要な因子の量を調べたところ、アスタキサンチングループでは創傷後にどちらも対照グループと比べて有意に高くなっていました。
コラーゲンは、美容の話でよく耳にしますよね。
『Ⅰ型コラーゲン』は皮膚の真皮にもありシワとも深い関係があるものです。実はFGF(線維芽細胞増殖因子)も、コラーゲンやヒアルロン酸を作る線維芽細胞を増やすために肌に注射するなど、最先端美容として注目されているんですよ。
そのとおり。アスタキサンチンを与えたグループで、創傷部にこれらが増えていたということは、組織を元通りにする働きも活性化されていたということです。シワは傷ではありませんが、シワのない部分と比べて皮膚深層の組織がダメージを受けているという点では、傷を治す働きと同じ考えができそうです。 つまり、アスタキサンチンには、創傷部の酸化度合いからは瘢痕化の予防をする働きが。そしてⅠ型コラーゲンやbFGF量の増加からは、創傷を治癒する働きが期待できるということですね。
アスタキサンチンは強い抗炎症作用を持っているので、かおりさんのように毎日声帯をよく使われる方々の毎日のケアにも期待できそうですね。
トコトリさん、いい読みです。 声帯を酷使すると、炎症が起きてしまいますよね。のどが痛くなったり、声がでなくなったりという経験をされたことがあると思います。炎症が起きると活性酸素が大量に発生してしまいます。浅い傷が積み重なって重症化しないためにも、早めに炎症を抑えたり活性酸素の発生を抑えるのは予防につながるのですよ。
最後にこちらのグラフも見てください。声帯の柔軟性に必要なヒアルロン酸量を比較したグラフです。アスタキサンチンを与えたグループで有意にヒアルロン酸量が多くなっていることがわかりました。
声帯の柔軟性に大事なヒアルロン酸が回復してきているんですね!
そのとおり。声帯が老化したり、傷ついてしまうとヒアルロン酸ができにくくなるというお話をしましたが、アスタキサンチンを与えたグループでは、ヒアルロン酸量が有意に増えていたのです。
なんだか声帯に良いことがたくさんありますね!
かおりさん、いかがでしたか。アスタキサンチンを摂取することで、声帯の傷を治して瘢痕化を予防することが期待できることが、わかっていただけたでしょうか。
はい。とても参考になりました。これからはアスタキサンチンを飲んで、より一層声帯を大切にしたいと思います。美容にも良さそうなので、早速はじめてみます。
アスタキサンチンの抗酸化力を高めるトコトリエノールの作用も、ぜひ見てください。
かおりさんのおっしゃるように、美容に関する研究もご紹介しているのでこちらもオススメです。